五輪真弓『恋人よ』が響かせる切なさ──戻れなかった冬の夜」

 

目次

「恋人よ、いまも心の中に」

冬の記憶に、まだあなたがいる。
五輪真弓『恋人よ』の世界観をもとに、再会のない愛を胸に抱き続ける女性の物語。
終わったはずの恋が、季節を越えて心に灯る。

風が、あなたの名を運んできた。

 

冬の午後、街角のカフェ。
窓の外に見覚えのあるコートがよぎり、胸が痛む。
過去にならない人の記憶が、また蘇る。

雪の降るホームで

 

あの日も冬だった。
夕方のホームに、
雪がちらつき始めていた。

あなたは
反対側の電車を待っていて、
黒いロングコートの襟を
指先で直していた。

ふと、
目が合ったような気がした。

本当に一瞬だったのに、
何かが始まる気がしたのを、
今でも覚えている。

名前も知らなかったあなたを、
なぜか追いかけてしまった。

名前を呼ばれた日常

 

それから、季節が変わるまで
あなたと過ごすようになった。

雪の降る日も、晴れた日も、
コーヒーを飲みながら話した。

私はあなたの横顔を
ずっと見ていた。

でも、あなたはいつも
少し遠くを見ていた気がする。

名前を呼ばれるたびに、
心が熱くなった。

けれど、
それと同じくらいの不安が、
胸の奥で静かに揺れていた。

言えなかった、さよなら

 

その日は、
駅前の街路樹に
灯りがともり始めた頃だった。

あなたが言った、
「しばらく会えないと思う」

私はうなずくだけだった。
理由を聞くのが怖かった。

「じゃあ、またね」
そう言ったあなたの笑顔が
あまりにも優しくて、
胸が張り裂けそうだった。

でも私は、
「またね」と言えなかった。

第四章|現在:風の中に残る声
それから数年。
別の駅、別の街で
私は暮らしている。

けれど冬になると、
風の音にまぎれて、
あなたの声がよみがえる。

ふとした瞬間、
名前をつぶやいてしまう。

「恋人よ──」

あの頃は言えなかった言葉が、
いま、静かにあふれてくる。

過去にならない恋が、
今も胸に、生きている。

窓の外に、あなたの影

 

 

先日、たまたま立ち寄った
古びた喫茶店で、
あの曲が流れていた。

五輪真弓の『恋人よ』。

カップに口をつけた瞬間、
涙がこぼれそうになった。

窓の外では雪が降っていた。
あの冬の日と、
まったく同じように。

過去にならない恋

 

『恋人よ』には、
“終わっても消えない愛”
という静かな力があります。

別れたあとも、
どこかで生きている相手を想う。

再会はないけれど、
恋は消えていない。

そんな感情に、
物語として形を与えたくて
この作品を書きました。

心の中でだけ続いていく、
切なくも温かい恋の記憶を
あなたの胸にもそっと残せたなら──

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