「ピンク・レディー『UFO』に揺れた青春──あの夏の懐かしさが胸を刺す」 1版

目次

空飛ぶあなたは、もう戻らない

 

ピンク・レディーの名曲『UFO』が呼び覚ます、あの日の不思議な別れ
夏の終わりのある夜、
少女は空から現れた、
ひとりの少年と出会う。

彼は不思議な存在で、
どこか懐かしい空気をまとい、
心を揺さぶった。

やがて訪れる別れ。
それは予感されていたこと。

ピンク・レディーの『UFO』が
描いた世界に重なるように──
彼は空へと帰っていった。

夜の校庭、

光の中に立っていたのは、見知らぬ誰かだった
雨上がりの夜の校庭に、
少女はひとり、佇んでいた。

心がざわめいて、
眠れずに飛び出した帰り道。

星も見えない曇り空に、
突如、まばゆい光が走る。

その中心に立っていたのは──
見たこともない、けれど、
どこか懐かしい顔の少年だった。

空から来た、見知らぬ誰か

 

校舎裏のフェンスを越え、
薄暗いグラウンドに足を踏み入れる。

昼間の喧騒が嘘のように、
夜の校庭はしんと静まり返っていた。

「…また来ちゃった」

制服のまま、砂を踏む音。
空はまだ曇っていた。

彼女の名前は遥(はるか)。
高校二年、17歳。

最近、何かが満たされない。
日常は淡々としていて、
心だけが、置いてけぼりだった。

ふと、風が止まった。

次の瞬間、空がひらくような音がして、
眩しい光が上から落ちてきた。

反射的に目を覆う。
見えたのは、逆光に浮かぶ
誰かの影だった。

「……え?」

影はゆっくりと降りてきて、
遥の数メートル先に着地する。

背は高く、細身で、
銀色のような髪が
ほんの少し揺れていた。

「怖がらなくていい」

少年の声は、静かだった。
けれど不思議と、心に染みた。

「きみ、誰……?」

「名前は、ないんだ。
僕はここに、観測しに来ただけ」

目が合った。
どこか遠くを見ているような、
けれど優しい目だった。

遥の胸が、ぎゅっと鳴った。

ひと晩だけの、特別な時間

彼は、地球を”見に来た”存在だった。

「いつかこの星も、
記録の中の風景になる。
だから、そのままを見ておきたい」

そんな言葉を、彼は静かに言った。

ふたりは校庭のブランコに座り、
夜風を浴びながら話した。

彼の話すことは、どれも不思議で、
でも、なぜか懐かしさがあった。

「あなたは、帰るの?」

「夜明けとともに。
僕の世界に、戻らないといけない」

遥はうつむいた。

「なんで私に会いに来たの?」

彼は、少しだけ笑って答えた。

「偶然だよ。でも、君の心の音が、
空まで届いていたから」

その言葉に、遥は涙がこぼれそうになった。

そして、朝が来る

空が、少しずつ白み始めた。

「時間だ」

彼は立ち上がった。
光が再び、彼の周りを包み込む。

遥は思わず、彼の手をつかんだ。

「…名前、つけていい?」

彼は、驚いた顔をして頷いた。

「じゃあ…空(そら)」

「いい名前だ」

光が強くなり、彼の輪郭がぼやけていく。

「ありがとう、遥。
君に会えて、よかった」

その瞬間、空はまばゆい閃光となって、
夜明けの空へと、消えていった。

遥はしばらく動けず、
空を見上げ続けた。

もう、何も降ってこなかった。

後日談/余韻

空を見上げるクセだけが、今も残っている
それから何年が経っても、
遥はふとした瞬間、夜空を見上げてしまう。

あの夜、誰にも話せなかった出来事。
夢のようで、でもたしかにあった記憶。

ピンク・レディーの『UFO』を
街角で耳にするたび、
遥の胸は静かに高鳴る。

──あれは幻なんかじゃない。
そう思える強さだけが、今も残っている。

あとがき

この物語は、ピンク・レディーの名曲
『UFO』をテーマに書きました。

あの独特なリズムと、どこか切ない歌詞。
人知を超えた存在との“出会いと別れ”が
ただの空想に終わらず、心に残る──。

そんな余韻を、小説という形で表現しました。

読んでくださったあなたの心にも、
少しでも”光”が届いていたら、嬉しいです。

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