雪の灯、声のない手紙
北風に吹かれた未練が、
男を旅に変えた──
石原裕次郎の『北の旅人』。
愛した人を都会に残し、
一人北へ向かう中年の男。
心に残るのは、別れの夜と、
言えなかった言葉の重さ。
降り積もる雪の中で、
彼は自分の過去と向き合う。
その先に待つものは、赦し
か、それともさらなる孤独か。
雪の町に降り立つ男。
ポケットには開けぬ手紙。
最終列車を降りた男の足元に
雪が静かに舞い落ちる。
見慣れたはずの駅前の風景。
けれど、どこか遠く感じた。
吐いた息は白く溶け、
胸の奥で何かが軋んだ。
コートのポケットの中、
くしゃくしゃになったままの
古びた手紙──まだ開けていない。
帰れなかった理由
あの夜、電話を切ったあと、
どうしても会いに行けなかった。
「もういいの」と言った声。
強がりだと、気づいていた。
けれど、自分に何ができた?
仕事も、夢も、未来も、
全部中途半端なままだった。
彼女の住む部屋の明かりを、
遠くの交差点から見ていた。
足は動かず、ただ立ち尽くした。
その明かりが、最後だった。
彼女を見たのは、あの夜が。
北国で見たもの
それから何年も経った今、
なぜ自分はここにいるのか、
男は自分に問いかける。
彼女の故郷。海沿いの小さな町。
何もない場所──そう思ってた。
でも、今は違った。
静かに降る雪の音が、
男の心をじわりと溶かしていく。
ふと目に止まった、小さな喫茶店。
「灯」という看板が見えた。
記憶の奥にある名前だった。
後日談/余韻
列車に揺られて戻る途中、
男はようやく手紙を開いた。
そこには、短く一行──
「あなたが来てくれてよかった」
過去は変えられない。
でも、今この瞬間だけは、
心が少し、軽くなっていた。
あとがき
石原裕次郎さんの『北の旅人』。
あの歌の余韻には、旅情と哀愁、
そして何より“未練”があります。
この小説では、歌詞の世界観を
一人の男の心の旅として描きました。
忘れられない人がいる。
言えなかった言葉がある。
そんな誰にでもある“後悔”を、
雪と静けさで包んでみました。
読んでくださり、ありがとうございます。

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