笠置シヅ子【あらすじ】
大阪・下町の商店街に響く笠置シヅ子の『買い物ブギ』。
明るさの裏に、懐かしさと切なさが隠れていた。
20年ぶりの再会は、
あの頃の笑い声とともに、
ふたりを少しだけ若返らせた。
【八百屋のラジオから流れてきた、】
八百屋のラジオから流れてきた、
あのリズム、あの声──。
買い物カゴを提げた私は、
思わず足を止めて振り返った。
まさか、あの人が立ってるとは思わなかった。
【戦後の焼け跡から復興して】
戦後の焼け跡から復興してきたこの町は、
いつもにぎやかで、どこか騒がしい。
だけど私はこの空気が好きだった。
八百屋の親父の声、豆腐屋のラッパ、
駄菓子屋の子どもたちの喧嘩。
それら全部が、生活の一部だった。
「買い物ブギ」が流れ出したのは、
ちょうど卵を買いに行こうと
角を曲がったそのときだった。
ひときわ懐かしいリズムに、
身体が自然と揺れてしまった。
「…あれ?マリちゃん?」

振り向くと、
手に長ネギと大根を持ったまま、
ぽかんと口を開けた男がいた。
「…え、ヨシくん?」
20年ぶり。
でも、声だけでわかった。
それくらい、私にとって彼は濃かった。
「なんや、東京行ったって聞いとったで」
「うん。行ったけど、戻ってきた。
商店街が、恋しゅうなってな」
気づけば私たちは、
八百屋の前で立ち話を始めていた。
まるで時間が巻き戻ったかのように。
「昔、よーケンカしたなぁ」
「ほんまやね。
でもあれも全部、青春やったね」
ヨシくんは笑った。
あの頃より髪も薄くなったけど、
笑い方だけは昔のままだった。
「今度、ゆっくり話そうや」
「うん。今度こそ、喧嘩せんようにね」
そのとき、八百屋のスピーカーから
もう一度「買い物ブギ」が流れた。
まるで、昔の自分たちを祝福するように。
【プロローグ】
商店街の入り口にある古いスピーカー。
今でもたまに、
あの曲が流れることがある。
「ブギウギ買い物ブギ〜♪」
その声を聴くたびに、
私は少しだけ、姿勢を正して歩く。
なぜって、あの人にまた出会う気がするから。
【あとがき】
笠置シヅ子さんの『買い物ブギ』は、
元気でパワフルな曲ですが、
その裏には“生き抜く強さ”や
“暮らしの中の小さな幸せ”が感じられます。
今回は昭和の商店街を舞台に、
再会と懐かしさをテーマに描きました。
笑えるようで、ちょっと泣ける。
そんな“昭和の恋”が、
今の読者にも響くことを願って。

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