2.あらすじ
終電間際のホーム、手を振る君の姿が今も焼きついている。ブクロ『この地球(ほし)の続きを』が紡ぐ、再会を願いながらも交わらなかった二人の切ない物語。
3.東京駅の11番線、冬の冷たい空気の中で、
東京駅の11番線、冬の冷たい空気の中で、君が最後に言った「じゃあね」は、ただの別れじゃなかった。あのとき僕は、言葉を一つ、握りつぶした。
4.春と冬の狭間の季節だった。
春と冬の狭間の季節だった。昼間はコートがいらないくらい暖かいのに、日が落ちると急に指先がかじかむ。
あのときの僕たちには、その中途半端さがちょうどよかったのかもしれない。
君が帰ることになったのは、急な話だった。地元の企業から内定をもらっていて、春からはそっちで働くと。
東京には、未練があるような、ないような顔をしていた。
「私さ、やっぱり地元が好きなんだと思う」
そう言った君は、どこか無理に言葉を揃えていた。
僕は頷くことしかできなかった。反対する理由も資格も、持ち合わせていなかったから。
最後に会ったのは、池袋西口の小さな喫茶店だった。
大学の近くにある、昔から二人でよく行っていた場所。
店内は相変わらず薄暗くて、豆の香りが重たく空気に漂っていた。
「なんかさ、卒業って全然実感ないね」
君がカップをくるくると回しながら言った。
僕も、「そうだね」とだけ答えたけど、実際は心がずっとざわついていた。
沈黙が、ふたりの間に長く横たわる。
でも不思議と気まずくはなかった。ただ、時間が惜しかった。
「この地球の続きを、一緒に見たいって思ったときもあったんだよ」
その言葉は、ふいに、静かに落とされた。
まるで、テーブルの上の砂糖がこぼれるみたいに。
僕は一瞬、言葉を失った。
そして、笑うしかなかった。
君も笑っていたけど、その目だけは冗談じゃなかった。
駅までの帰り道、歩幅がなかなか合わなくて、何度も立ち止まった。
君は電車の時間を気にしていたけど、僕はもっと別の時間を気にしていた。
“このまま時間が止まればいい”なんて、そんな青臭い言葉が喉までこみ上げた。
東京駅のホームは、ひどく寒かった。
発車のアナウンスが響く中、君は振り返って手を振った。
そのときの君の表情を、今でも正確に思い出せる。
笑っていたけど、それはきっと「またね」じゃなくて「さよなら」だった。
君が乗った電車が見えなくなったあとも、僕はしばらく動けなかった。
ポケットの中に、ぐしゃぐしゃになった手紙があった。
本当はそれを渡すつもりだった。でも、出せなかった。
「好きだった」も、「一緒にいたい」も、タイミングを逃すとただの過去形になる。
それからの日々は、時間が淡々と過ぎていった。
君がいない日常に、思ったよりもすぐ慣れてしまった自分が、少しだけ嫌だった。
けれど、ふとした瞬間に、君の言葉がよみがえる。
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「この地球の続きを、一緒に──」
その続きを、君はどんなふうに考えていたんだろう。
僕と過ごした時間は、君にとってどれくらいの重さだったんだろう。
数年が経ち、SNSで偶然見つけた君は、違う誰かと結婚していた。
笑っていた。穏やかな顔だった。
胸がぎゅっと締めつけられるような痛みと、でもどこかほっとしたような気持ち。
「よかったね」って思えた自分に、ほんの少し救われた。
それでも僕は、今でも駅のホームで、君が手を振る姿を思い出す。
過去になった風景の中で、君の声だけがいつも新しい。
何年経っても、あの日の「さよなら」だけは、まだ終わっていないような気がしている。
5.プロローグ(余韻)
ある冬の夜、東京駅のホームに立っていた。
目の前には、終電間際の電車が止まっている。
ポケットからくしゃくしゃのメモを取り出す。そこには、書きかけの言葉。
「もし、あのとき返事をしていたら──」
でも僕は、その手紙を破らなかった。
ただ、胸ポケットにしまい直しただけだった。
6.作者のあとがき(任意)
ブクロ「この地球(ほし)の続きを」を初めて聴いたとき、胸にぽつりと灯がともるような気がしました。
懐かしさと、どこか取りこぼした記憶に触れるような感情。
この物語は、もしも誰かの“届かなかった想い”に重なることがあれば嬉しいです。
読んでくださって、ありがとうございました。
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