坂本冬美『また君に恋してる』が響いた夜──再会がくれた、切なさの答え

再会がくれた、切なさの答え

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あらすじ

 

十年ぶりに故郷へ帰った春の夜。
再会した彼女の横には、知らない誰かの影があった。
坂本冬美『また君に恋してる』が流れる中、
ふたりの心がすれ違う、切ない春の物語。

あの坂道を上るたび

あの坂道を上るたび、
君の笑顔が浮かぶのは、春のせいだろうか。
桜が舞う駅前のカフェで、十年ぶりの再会。
胸の奥に、忘れたはずの気持ちが目を覚ました。

 

「変わってないね」

「変わってないね」
久しぶりに見る彼女の笑顔は、
あの頃のままで少しだけ、大人びていた。

駅前のカフェは、昔ふたりでよく来た場所。
窓際の席に座ると、店内のスピーカーから
坂本冬美の『また君に恋してる』が流れ始めた。

まるで、時間が巻き戻ったようだった。

「東京、どう?楽しくやってる?」
彼女の問いに曖昧に笑って、
「まあね、仕事ばっかだけど」

本当は、君を忘れたくて
忙しくしてただけだったのに。

彼女の指先には、
見慣れない細いリングが光っていた。

気づかないふりをした。
それが、大人のやり方だと思った。

「こっちはどう?元気だった?」
「うん…最近結婚したの」

胸の中に、音もなく何かが崩れた。
けれど、それを見せたくなくて、
「そっか。おめでとう」
と、精一杯の笑顔をつくった。

 

彼女は照れくさそうにうつむき、
カップを持ち上げた手が少し震えていた。

「ねえ、あのとき言えなかったこと、あるんだ」
唐突にそう言うと、彼女はカバンから
小さな封筒を差し出した。

「これ、あの春、渡すはずだった手紙」

受け取ったそれを見つめながら、
俺は思った。

きっと、あのとき君も、
俺と同じように、何かを抱えてたんだろう。

でももう遅い。
今さら、読んでも意味はない。

そう思いながらも、
帰りの電車の中で、
封筒を破ってしまった自分がいた。

中にあった言葉は、
どこまでもまっすぐで、やさしかった。

「また君に恋してる」
あの歌の歌詞じゃないけれど、
君は最後の最後まで、
俺を見ていてくれたのだと思った。

涙なんて、とっくに枯れたはずだった。
だけどその夜、眠れないまま、
カーテンの隙間から月を見上げていた。

プロローグ

春の夜風に吹かれて、
ふとカバンの奥から出てきた、あの手紙。

折り目が増えたそれを、
もう一度読み返す。

「また君に恋してる」
今はただ、その言葉だけが、
胸の中で静かに響いている。

あとがき

坂本冬美さんの『また君に恋してる』を
初めて聴いたとき、
「大人の恋には、未練よりも静かな願いがある」
そんな印象を受けました。

この物語は、
もう届かない想いを抱えながらも、
「また好きになってしまう」心の揺れを
そっと描いたものです。

読んでくださったあなたにも、
大切な“誰か”が心に浮かびますように。

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