狩人『あずさ2号』が語る別れ──改札の手前で言えなかった言葉

狩人『あずさ2号』が語る別れ──改札の手前で言えなかった言葉

目次

【あらすじ】

新宿駅のホームで、
彼を見送るために立ち止まった。
「行かないで」とは言えなかったあの日、
狩人『あずさ2号』が流れていた。
これは、心に残る最後の背中と、
言えなかった想いを抱えた
ある女性の静かな別れの物語。


【あの日、あの場所で】

あの日、あの場所で、
もしも呼び止めていたら
何かが変わったのだろうか。
改札の奥へと消えていった背中を、
私は今でも、夢に見る。


【土曜の朝、新宿駅は】

土曜の朝、新宿駅は
いつものように混み合っていた。
それでも私の視界には
彼しか映っていなかった。

長野行きのあずさ2号。
彼は、その列車に乗る。

理由は仕事だった。
転勤──それだけなら、
私も笑って見送れたはずだった。

でも彼は、
「ひとりで行くよ」と言った。
それがすべてを物語っていた。

***

ホームに並んで立った。
彼はコートのポケットに手を入れ、
黙って電光掲示板を見上げていた。

私は言葉を探していた。
「一緒に行きたい」も
「やっぱり、やめて」も
どれも違う気がして、
結局、何も言えなかった。

「そろそろ時間だ」

彼はそう言って、
私の頭を軽く撫でた。

それが合図だった。

電車のドアが開き、
彼は振り返らずに乗り込んだ。

私はただ、
あずさ2号が走り去るのを
見送るしかなかった。

構内に流れていた
有線のBGMが耳に残っている。
狩人の『あずさ2号』。
偶然かもしれない。
でも、その偶然が
やけに胸を締めつけた。

***

それから数年。
彼とは一度も会っていない。

手紙も電話もなかった。
でも私は、あの日から
毎年、あの季節になると
新宿駅に足が向いてしまう。

変わらないホームの風景。
変わっていくのは、自分の心だけ。

列車の発車ベルが鳴るたびに、
あの日の朝が
ふいに蘇ってくるのだ。


5.【プロローグ】

春の風が強く吹いた午後。
新宿駅南口を歩いていたら、
あの日と同じBGMが
店の前から流れてきた。

『あずさ2号』──懐かしい旋律。

「そろそろ時間だ」

そう言った彼の声が
ふいに耳の奥に蘇る。

その声に、
ようやく心の中で返事をした。

「ごめん、言えなかっただけなんだ」


【あとがき】

狩人『あずさ2号』は、
旅立ちと別れをテーマにした名曲で、
日本人の感情の奥深くに
静かに触れてくる一曲だと思います。

この物語では、
「言えなかった想い」を軸に、
駅の情景とともに描いてみました。

誰かを見送るとき、
胸の中に残る小さな後悔──
そんな経験をしたことのある人に、
少しでも届けば嬉しいです。

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