【 あらすじ】
十年前、駅のホームで別れた君の名前を
ふと耳にした夜──真田ナオキ『Nina』が描く、
再会とすれ違いの切なさ。答えを探す一夜の物語。
【「……あれ?今、なんて言った?」】
「……あれ?今、なんて言った?」
深夜ラジオから流れたのは、
あの頃、君が好きだった曲と──君の名前。
冬の街に、止まった記憶が動き出す。
【最終電車のアナウンスが響く。】
最終電車のアナウンスが響く。
静まり返った駅のベンチに一人、
俺は缶コーヒーを握っていた。
十年前のこの日、君とここで別れた。
「行くの?」と聞いた君の声が、
まだ耳に残っている。
「うん。俺は東京でやってみる」
そう言いながら、
どこかで戻る場所にしていたんだ。
君のいる、この小さな町を。
——なのに、一度も戻らなかった。
ラジオから流れた真田ナオキの『Nina』。
耳にした瞬間、胸の奥がざわついた。
“ナナ”って、言ったよな?
まさか──そんな偶然があるか?
あの頃のことを思い出しながら、
俺は衝動的に電車に乗った。
冬の夜、雪がちらつく町に着いたとき、
店はほとんど閉まっていた。
でも、あの店だけは灯りがついていた。
喫茶店「ミモザ」。
君がバイトしていた店。
扉を開けると、懐かしいベルの音。
マスターがちらとこちらを見る。
「あの……ナナって人、ここで働いてますか?」
「……ああ。いるよ。奥で片づけしてる」
心臓が跳ねた。
変わっていなければ、君は──
カウンター越しに君が現れたとき、
時が一瞬止まった気がした。
髪型も雰囲気も少し違う。
でも、あの目は──
「……信じられない」
君が言った。
「今さら、なんで……?」
「ラジオで君の名前が流れたんだ。
それで、いてもたってもいられなくて」
言い訳みたいだった。
でも本当だった。
君は静かに笑って、
「ラジオ……ああ、地元の番組でね。
昔のこと、少し話したの」
まさか、それを東京で聴いたなんて。
あの時、君は引き止めてくれなかった。
でも、それが正解だと思ってた。
夢を選んだ俺と、町に残る君。
すれ違いは、自然なことだった。
──でも。

「今なら、どうしてた?」
俺が聞いた。
君は黙って、ホットココアを差し出した。
「寒いでしょ。あの頃みたいに」
それが答えだった。
店を出たときには、
雪が本格的に降り始めていた。
振り返ると、君がまだ店先にいた。
俺は何も言わずに手を振る。
君も、何も言わずにうなずいた。
また会えるかは、わからない。
でも、あの夜のココアの温もりだけは、
ずっと消えない気がした。
【プロローグ】
東京の夜、コンビニの帰り道。
ふと通りかかったラジオから、またあの曲が流れた。
真田ナオキの『Nina』。
手の中のホット缶ココアが、少しぬるくなる。
君は、今もあの町で元気だろうか。
──また、会えるといいな。
【あとがき】
真田ナオキさんの『Nina』を聴いたとき、
「過去の誰かの名前をふと思い出す夜」が
ふと浮かびました。
この物語は、そんな一瞬の感情から生まれました。
別れた理由、今さらの後悔、
でもそれでも会いに行きたくなる夜。
あの頃の自分と、今の自分が少しだけ繋がるような、
そんな再会の情景を、
どこかの誰かが重ねてくれたら嬉しいです。

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