ヒロシ&キーボー【あらすじ】
3年付き合った彼と私。
笑い合っていた日々の先に、
ヒロシ&キーボー『3年目の浮気』の
ような別れが待っていたなんて。
彼の嘘に気づいていながら、
それでも忘れられなかった。
そんな私が再会したのは、
“別れの理由”とは違う、彼の本当の顔だった──。
【「…変わってないね」】
「…変わってないね」
そう言った彼は、
3年前と同じ駅のベンチにいた。
私を裏切った人に、
どうしてまた心が動くのか。
寒さよりも、あの時のぬくもりが
指先にまだ残っていた。
【彼と別れたのは、】
彼と別れたのは、
ちょうど3年目だった。
理由は、浮気──
と、いうことになっている。
でも、ほんとは違う。
私が聞きたくなかっただけ。
彼の「本音」も、「嘘」も。
「あいつ、他に女いるんだって」
職場の先輩がそう言ったとき、
私は驚かなかった。
携帯を伏せる癖、
急に飲み会が増えた週末。
全部、わかってた。
でも、確認しなかった。
壊れるのが怖くて。
「浮気なんて、ただの出来心だよ」
あの曲みたいに、
軽く笑ってくれたら、
まだ救われたかもしれない。
けど、彼は黙った。
一度も否定も、弁解もしなかった。
それが、苦しかった。
だから私から離れた。
音楽も、連絡先も、思い出も──
全部削除して、
“なかったこと”にしようとした。
けれど、
ヒロシ&キーボーの『3年目の浮気』が
ラジオから流れるたび、
胸の奥がずきんと痛んだ。

そして、3年後。
最寄り駅で人を待っていた私の前に、
まさかの顔が現れた。
「久しぶり」
彼の第一声はそれだけだった。
懐かしい笑顔。
だけどどこか疲れた目。
「元気だった?」
「まあ、なんとかね」
その“なんとか”に、
いろんなことが詰まっていた気がした。
「ちょっとだけ、話せる?」
私は頷いていた。
カフェの窓辺に並んで座った私たちは、
互いに遠くを見ていた。
「なんで黙ってたの?」
私がぽつりと尋ねると、
彼はゆっくりと口を開いた。
「…本当に浮気なんて、してなかった」
「じゃあ、なぜ?」
「君が離れていこうとしてた。
それに気づいてたから、
もう無理に繋ぐのはやめようって、思った」
私は言葉が出なかった。
「俺、あの時黙ってたのは…
悪者になれば、君が楽になると思って」
彼の声は、
少しだけ震えていた。
「ずるいね、私」
「いや、ずるかったのは俺さ」
ふたりの間に流れる沈黙は、
どこか懐かしかった。
その日はそれだけだった。
手も、触れないまま。
連絡先も交換せず、
駅の改札前で別れた。
振り返れば、
彼も同じように振り返っていた。
まるで、
何かを確かめ合うように。
【プロローグ】
雨の夜、
古いラジオから流れた
『3年目の浮気』に、
ふと足が止まる。
彼は今、どこで暮らしているのだろう。
そう思った瞬間、
スマホの中のアルバムを開いていた。
もう消したはずの彼の写真が、
1枚だけ、残っていた。
【あとがき】
ヒロシ&キーボーの『3年目の浮気』は、
ユーモアの裏に切なさが滲んでいる名曲です。
軽く聞こえる言葉の中にある「誤解」や「後悔」。
今回は、そんな“語られなかった本音”を軸に、
静かな再会を描きました。
誰かにとっての“別れの理由”は、
本当にそれだけだったのか──
そんな問いを投げかけたくて。
読んでくださって、ありがとうございました。

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