「YOASOBI『夜に駆ける』が照らす別れ──最後に見た君の横顔」

目次

夜に、君を迎えに行く

君の手を取るために、夜を駆ける──YOASOBI「夜に駆ける」より着想
夜ごと彼女は夢の中へ消える。
救えなかった後悔が彼を縛り、
月明かりだけがその背を押す。
彼は今日も、彼女のいる夜へと駆け出す──

 

夢か、幻か。君の姿を追い続けて──

もう、何度目だろうか。
君を追いかける夢を見るのは。

夜の街は静かで、
でもどこか焦げた匂いがした。

信号は青に変わっていた。
でも僕の足は止まったまま。

「君は…そこにいるのか?」

つぶやいた声が、
夜に吸い込まれていく。

遠くで、風鈴が鳴った気がした。
季節は、まだ夏だったんだな。

あの夜も、同じ交差点だった。
赤信号。
手を振った君。
僕は冗談のつもりで言った。

「飛び出したら、捕まえるから」

君は笑った。
その笑顔は、
今も脳裏に焼きついている。

その後のことは、覚えていない。
気づけば君はいなかった。
ただ、救急車の音だけが残っていた。

僕は、君を手放したまま
朝を迎えることができなくなった。

部屋の電気は点けない。
時計も裏返した。
時間を忘れるために。

夜が来るたび、
僕は目を閉じ、君を探す。

夢の中でしか会えないから。

今夜もまた、
君はそこにいた。

白い服を着て、
交差点の向こうに立っていた。

「ねえ、もう来ないで」
君は言った。
その声は優しくて、でも遠かった。

「僕は…君を助けたいんだ」

届かない願いだった。
でも、伝えたかった。

「君を…一人にしたくない」

君は少し微笑んで、
小さく、首を横に振った。

「じゃあ、もう一度、ちゃんと生きて」

その言葉が、
夢の中の夜風よりも冷たくて、
でも確かだった。

気づくと、朝だった。
眩しい光が、
カーテンの隙間から差し込んでいた。

部屋の時計を表に戻した。
歯磨き粉の香りが、
夏の終わりを感じさせる。

君は、もういない。
でも、君の言葉が残った。

──「ちゃんと、生きて」

それはまるで、
夜を駆け抜けてきた
僕への手紙のようだった。


君がくれた朝を、生きていく

コンビニの袋を片手に、
久しぶりに朝の街を歩く。

蝉の声がうるさくて、
それでも妙に懐かしかった。

信号の下で立ち止まる。
何の変哲もない景色。
だけど今日は、違って見えた。

「行ってきます」

思わず、そんな言葉が漏れた。
誰に向けたのかはわからない。
でも、確かに誰かに届いた気がした。

風が吹いた。
あの夜と同じように。

もう一度、生き直す。
夜に取り残された君の分まで。

 

君がくれた朝を、生きていく

 

 

コンビニの袋を片手に、
久しぶりに朝の街を歩く。

蝉の声がうるさくて、
それでも妙に懐かしかった。

信号の下で立ち止まる。
何の変哲もない景色。
だけど今日は、違って見えた。

「行ってきます」

思わず、そんな言葉が漏れた。
誰に向けたのかはわからない。
でも、確かに誰かに届いた気がした。

風が吹いた。
あの夜と同じように。

もう一度、生き直す。
夜に取り残された君の分まで。

あとがき

 

「夜に駆ける」がくれた、傷と祈りの物語

YOASOBIの「夜に駆ける」は、
原作小説『タナトスの誘惑』をもとにした
“命”をめぐる物語です。

この曲を初めて聴いたとき、
衝動と切なさが胸に刺さりました。

“好き”という想いが、
時に誰かを苦しめ、
でもまた、誰かを救う。

今回の短編は、
その感情のグラデーションを追いかけて
夜の中を走るように書きました。

君のために夜を駆ける人がいて、
君の言葉で朝に戻ってくる人がいる。

そんな物語が、
誰かの心にそっと届けば幸いです。

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