荒井由実・ 松任谷由実 「荒井由実『やさしさに包まれたなら』に重なる懐かしさ──小さな部屋とあの日の魔法」

目次

やさしさの魔法が解ける前に

荒井由実「やさしさに包まれたなら」によせて──優しさがくれた時間の記憶

もしも毎日が
魔法のようだったら──。
子どもの頃に感じていた、
小さくて確かなやさしさ。
あの頃の記憶が、
今の私をそっと包んでくれる。
荒井由実「やさしさに包まれたなら」から生まれた、
心を癒すノスタルジックな物語。

小さな部屋の窓から、光と匂いがあふれていた

雨上がりの午後、
窓辺に差し込む光と
あたたかい紅茶の香りが
昔の気持ちを連れてきた。
あのとき確かに感じていた、
目に見えない“やさしさ”のこと。

やさしさの魔法が解ける前に

雨上がりの午後だった。

カーテンのすき間から、
やわらかな光が差していた。

白いカップから立ちのぼる
紅茶の香りが、ふいに
昔の記憶を連れてきた。

まだ背の低かったあの頃、
祖母の家の居間で
よく遊んでいた。

窓辺にはレースのカーテン、
棚にはクマのぬいぐるみ。

なぜか、そこにいると
ほっとするような、
守られている気がしていた。

「見えないものほど、
本当は大事なんだよ」

祖母がよく言っていた言葉。

それは小さな私には
難しかったけれど、
今なら少しわかる気がする。

例えば、
窓の外にいた野良猫。

言葉を交わしたわけじゃない。
でも、毎日姿を見せてくれた。

それだけで、
なんだか安心していた。

例えば、
朝起きたときのふとんのぬくもり。

夜中に祖母がそっと
かけ直してくれたんだと
気づいたのは、ずっとあとだった。

その日は、夢を見た。

祖母が窓の外に立っていて、
私に微笑んでいた。

「あなたなら、大丈夫」

たったひと言だったけど、
その声が、
胸の奥にやさしく響いた。

目が覚めると、
涙が出ていた。

気づけば私は大人になって、
ひとり暮らしの部屋で、
忙しさに追われる日々を
繰り返していた。

でも──

誰かがそっと
やさしさを置いていったこと。

それが、いつまでも
心の中に残っていたこと。

それだけは、
忘れずにいたかった。

今日もカーテン越しに、
日差しが部屋を包む。

あのときの魔法は、
きっとまだ解けていない。

見えないけれど、
そっと私を包んでくれている。

「やさしさに包まれたなら──」

あの歌のように。
私はまた、静かに
紅茶を一口すすった。

|後日談/余韻

やさしさは、静かに生き続けている

春の終わり。

近くの公園で、
見知らぬ子どもが泣いていた。

私はそっと近づいて、
ポケットの中のハンカチを差し出した。

「大丈夫?」

小さな手がそれを受け取って、
少しだけ、泣き止んだ。

その瞬間、思った。

これはきっと、
祖母が私にくれた
やさしさの続きなんだと。

人は誰かからもらった温もりを
次の誰かへと渡していける。

そうやって繋がっていくやさしさは、
見えなくても、
確かに生きている。

私の中にも、
君の中にも。

あとがき

「やさしさに包まれたなら」からもらった、静かな強さ

荒井由実さんの
「やさしさに包まれたなら」は、
今聴いても色あせない魔法の歌です。

この物語は、
子どもの頃に感じた
“目に見えないけど確かなもの”を、
そっと形にするつもりで書きました。

やさしさは派手じゃないけど、
ずっと心に残るもの。

そして、思いがけないときに
ふいに誰かを支えてくれるもの。

もし、今あなたが
少しでも優しくなれた日には、
その気持ちを誰かに
そっと分けてあげてください。

それだけで、世界はきっと
ほんの少し、あたたかくなります。

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